第19回 冨澤伸江先生の老紅木二胡

 まだまだ暑い日が続いておるのう〜、ご存じアルフー老師じゃよ。早く楽器の練習意欲が出る涼しい季節になって欲しいものじゃ…(言い訳)。さて、前回は久しぶりに行った関西で、楽器マニアの男前な先生にお世話になったが、今回は、またしても関東に名器を所有した二胡奏者がおるとの情報を聞きつけたため、再度キン斗雲の舵を東に切り、夏空の下、目的地へと爆走したぞ! 今回降り立った場所は、臨海部には京葉工業地域も有しており、関東有数の商業拠点として栄えてきた千葉市じゃ。この街と近隣地域で教室を開講し、名器を所有しておるのは、二胡演奏家で講師の冨澤伸江さんということじゃった。猛暑日だったにも関わらず、待ち合わせた場所に、気になる名器を携えて颯爽と登場したこの先生、爺に対しても心優しい気遣いを見せてくれ、気さくな中にもどこか凛とした表情を窺わせる、とても魅力的な女性じゃったぞぉ〜(泣)
 冨澤さんは、元ピアノ講師ということで、仕事の関係で中国の上海にて邦人へのピアノ指導を行っていたことがあり、その時に、かねてからその音色に惹かれていた二胡を始めようと決心し、現地の先生に習い始めたということじゃったよ。そんな冨澤さんが演奏活動やレッスンにおいてメインで使用しておる楽器、「上海民族楽器一廠“敦煌”牌」の上海式老紅木二胡について、早速、本人のコメントを交えて紹介させてもらうことにしよう。

上海民族楽器一廠“敦煌”牌老紅木二胡全体

冨澤:以前ピアノ講師をしていた時に中国の上海で仕事をすることになり、2002年から2007年までの5年間は、日本人対象の音楽教室で現地の日本人学校に通うお子さんを中心に指導していました。中国の生活に慣れた頃、仕事とは別で何か楽器を習いたいと思うようになり、せっかく中国にいるのだからと最初から音色が好きで興味のあった二胡を選びました…と言うより、他の楽器は選択肢にありませんでした(笑)。最初の楽器は、まだ上海で二胡を習う前に購入したもので、楽器店の店頭にある中で一番良い上海式の鶏血紫檀二胡でした。この楽器は数年経つと蛇皮が緩んでブヨブヨになってしまい、後に弟にあげてしまったのですが、その後も、上海でお世話になった姚新峰氏から購入した、人工皮を採用した二胡を使用したりしましたが、これもデンペンが消耗したりして駄目になってしまいました。ほかに、日本で最初に師事した先生から中古で購入した北京式金属軸糸巻き二胡を使用した時期もありましたが、帰国後も何度も赴いている上海で、2008年に購入したのが、現在メイン楽器として活躍している、この「上海民族楽器一廠“敦煌”牌」老紅木二胡です。実は購入後すぐには使用せず数年寝かせてあったのですが、2、3年前に音出しをしたところ、入門用の二胡を弾いているような音色に感じ、再びケースに仕舞ってしまいました…(苦笑)。その後は暫く使っておらず、約1年前に、久しぶりに様子を見てみようとケースを開けたところ、なんと、蛇皮が少し虫に食われてしまっていました(泣)。使用しないとあまりに可哀そうなので(笑)、駒などの部品を換えたところ、自分好みのまろやかな音色に近づいて来たので、現在はようやく演奏活動やレッスン時のメイン二胡として使えるようになりました。ただ、日によっては拗ねて思っている音色を出してくれなかったり(苦笑)、まだまだ自分好みの音には辿り着けていないため、これから、この二胡と共に成長して行ければと思っています!

老師:「上海民族楽器一廠」は、中国最大規模の民族楽器製造会社で、二胡以外にも、さまざまな民族楽器を製造・販売しておるぞ。直営のお店も百年以上の歴史を持つ上海で一番古い繁華街「南京東路」にあり、自社工場では二胡を年間10万本も生産しておるそうな。“敦煌”牌ブランドとして、日本にも数多くの機種が輸入されているため、皆もどこかで見かけたことがあるかも知れんのう〜。冨澤さんにその音を聴かせてもらったが、メイン二胡として弾き込んだことで十分な音量も出ており、どこまでも柔らかくまろやかなその音色は、この爺を包みこんで愉しませ、上海の豫(= 愉しい)園に誘うかのようじゃったよぉ〜(感涙)


(詳細は本誌をご覧ください)