第18回 鈴木ヒロト先生の老紅木二胡

 ?好!アルフー老師じゃ。この号が出る頃には鬱陶しい梅雨も明け始め、いよいよ夏本番になっておる頃じゃのう〜。さて、前回は遠州灘沿岸の街で活動されておる何とも気さくな二胡奏者のもとを訪ねたが、今回は「関西地域に名器を所有する二胡奏者あり!」との噂を情報筋から聞きつけて、久しぶりにキン斗雲の舳先を西に向け、目的地へと急いだぞ!今回降り立った場所は、徳川家康が明智光秀方からの追討を逃れるため、滞在していた堺から本拠である三河に戻る途中に一時潜伏した、との言い伝えがある大阪府交野市じゃ。この街を拠点に教室を開き、名器を所有されておるのは、二胡演奏家で講師の鈴木ヒロト氏ということじゃった。素敵なご自宅で二胡教室を開かれているこの先生、レッスンルームにはずらりと自慢の胡琴類が並んでおり、不躾な爺の突然の訪問にも関わらず、とても柔らかく紳士的に対応してくれたよぉ〜(泣)
鈴木氏は、小学校低学年から高校生までオルガン・エレクトーンを学んだそうで、中学一年生よりギターを始め、その後、大学一年生の頃にロック・ベーシストに転向、「バンドやろうぜ!」のノリで音楽漬けの日々を送ったという根っからの楽器好きということじゃった。二胡には、90年代中頃の上海旅行中に出会ったということじゃが、そんな鈴木氏が演奏活動やレッスンにおいてメインで使用されておる楽器、「馬乾元」氏製作の蘇州式老紅木二胡について、早速、本人のコメントを交えて紹介させてもらうことにしよう。

馬乾元精製 蘇州式老紅木二胡全体

鈴木:もともと楽器マニアなので、80年代初頭より二胡の存在は知っていましたが、手にすることは叶いませんでした。その後、90年代中頃の上海旅行中に、レストランでプロの二胡奏者の演奏を見て感動し、帰国時には手荷物の中にしっかり二胡が収まっていました(笑)。当時1万円もしない入門用の紅木二胡だったのですが、その二胡には千斤も弦も張られていなかったため、現地のレストラン演奏での待合時にもしげしげと見つめ、見よう見まねで苦労して取り付けました(苦笑)。当時はまだ、私の地元で二胡奏者を見つけることは困難で、我流で弾いていたのですが、基本を学ぶために通信教育の二胡講座を始めることにしました。その通信教育にも楽器が付いてきたため、初めのうちはその2本を使っていました。独学にも限界があったため、その後、大阪市内で張連生氏の教室に通うことになり、張先生から、次の二胡となる北京式黒檀二胡を購入しました。流石に独学とは進歩の度合が違って急激に進んだため、もう少し良い楽器を…と考えるようになり、更に次の紫檀・老紅木系の音色を求めるようになりました。その後、大阪で日本二胡振興会の演奏会があって出演参加した時、たまたま友人ご夫妻と友達関係にあった王明君氏も出演されていたため、楽屋で何か良い楽器がないか質問したところ、「あるある、僕のがあるよ」ということで紹介してもらいました。そうして出逢ったのが、現在もメイン楽器として活躍している馬乾元氏製作の蘇州式老紅木二胡だったんです。王氏がCD制作時にレコーディングなどで使用していたとのことで、ご好意で譲ってもらいました。この老紅木二胡は、抜けるような透明感のある音色の中にも枯れた味わいがあり、教室の同門の方にも、とても音色が綺麗だと褒められたくらいなんです!

老師:現在はかなりご高齢になられている蘇州の二胡製作師「馬乾元」氏は、特に老紅木精品の製作において有名な専門職人じゃ。この老紅木は、主にミャンマーなどで解体された家具や家屋の木材を使用しており、経年してほどよく水分が抜けたことで枯れた味わいのある音色が出せるということじゃった。鈴木氏にその音色を聴かせてもらったが、確かに透き通るような艶やかな高音が鳴り響き、それでいて甘くしっとりとした繊細な音色は、江南地区の水郷を想起させるような、柔らかく美しいものじゃったぞぉ〜(感涙)


(詳細は本誌をご覧ください)