第25回 田宇先生の各種二胡

 ?好!アルフー老師じゃよ。まだまだ暑い日が続いておるが、皆は元気に過ごしておるじゃろうか。それにしても、今年の夏は本当に猛暑日が続いたのう〜、爺も暑さでとろけそうになっておったため、おかげで肝心な二胡の練習も身が入らんかったぞ(苦)。さて、前回は西へ西へと走り、九州は福岡で、数々の名器を所有する先生に出会ったが、今度は関東地方に名器を所有する二胡奏者がおるとの噂を情報筋から入手したため、久しぶりにキン斗雲の舳先を東へ向け、入道雲を横目に見ながら、青空の下、目的地へと急いだぞ!今回降り立ったのは、元々、大量の銀を保有していた“白金長者”がおったことが町名の起源になったという、東京都港区白金じゃったぞ。この街で教室を開き、名器を所有しておるのは、新進気鋭の二胡演奏家で講師の田宇(ティエン ユイ/でん う)さんということじゃった。学校法人北里研究所前にあるマンションの一室に、田氏が主宰する「青空田宇二胡教室」があり、この爺の突然の訪問にもかかわらず、若くてナイスガイな田氏が、快く出迎えてくれたぞぉ〜い!(泣)
 田氏は中国江西省九江市出身で、9歳より二胡を学び、周平華、王亮生、劉長福、趙寒陽の各氏に師事したということじゃった。その後、2006年に中国音楽学院へ入学し、張尊連准教授門下に入ったそうな。大学3年の頃より同学院教授で作曲家、指揮者の黄暁飛氏に作曲を学び、2009年の夏には、中国音楽家協会主催「成才之路」コンクール作曲部門にて3位入賞の成績を収めたということじゃ。学院卒業後、2010年末に来日し、今年の3月には、東京学芸大学大学院作曲専攻を修了したそうで、本格的に演奏活動ならびに二胡の指導を始めたばかりということじゃった。そんな田氏は現在、演奏活動やレッスンで使用しておる楽器を3本所有しており、それぞれにストーリーがあるということじゃった。早速、本人のコメントを交えて紹介させてもらうことにしよう。

辜存雄精製 インド小葉紫檀二胡全体

田宇:二胡を始めたばかりの頃は、何十元の安い楽器を使っていたのですが、先生について習うようになると、さすがにあまり安い楽器を先生の前で使う訳にもいかず(苦笑)、良い二胡の方がレベルアップもできるということで、16〜17年前の頃でしょうか、父の友人に頼んで上海製の黒檀二胡を入手しました。その後、高校生から大学に入って暫くの間は、紫檀製の二胡を使用していたのですが、大学一年生の冬休みに、最初の先生からの紹介もあって、現在のメイン楽器である「辜存雄精製 インド小葉紫檀二胡」に出会いました。この楽器は、九江市の「龍韻」という工房兼楽器店で二胡製作師 辜存雄氏が製作した二胡で、工房に遊びに行った時、偶然そこにあった物なんです。何でも、楽器のコンクールに出品した二胡だったようで、九江市ではコンクールに通ったそうなんですが、その上の江西省のコンクールでは駄目だったという代物でした(笑)。そんなことは全く気にならず、キレの良い音色が気に入ったため、希少材インド小葉紫檀の楽器としては現在では考えられない価格ですが、3,500元ほどで手に入れました。もう1本のサブ的な位置づけの二胡も、同じ「龍韻」工房の「辜存雄精製 アフリカ小葉紫檀二胡」ですが、これを入手したのにはある事情がありました。日本に来てから一年間、中華レストランでホールの仕事もしながら演奏をするアルバイトをしていたのですが、店主が厳しくて、演奏の仕事をしながらの講師活動はさせてもらえず、楽器もお店に置いておくように言われていました。練習する楽器がなくなって困った私は、もう1本の楽器を購入することを決意し、家族に依頼して試奏もせずに(苦笑)、「龍韻」工房から同様の二胡を送ってもらいました。それが、このアフリカ小葉紫檀二胡なんです。3本目の楽器は、「王国興精製 老紅木二泉二胡」です。中国音楽学院時代、大学の民族楽器オーケストラに所属しており、中胡パートがあったんですが、皆、中胡を弾かずに、二泉琴で代用していました(笑)。この楽器は、その頃に入手した二泉二胡になりますが、今のところ活躍の場面は少ないですね。私は、紫檀の伸びのある高音の音色が気に入っているため、演奏・講師活動で主に使用している「龍韻」工房の辜存雄精製紫檀二胡は、今となっては手放せない楽器になってるんです。

老師:辜存雄氏は、湖北省安陸市出身の二胡製作師で、1995年に江西省九江市で「龍韻」二胡工房を開設したそうじゃ。2009年には中国全土の二胡製作コンクールにおいて金賞も受賞し、二胡製作大師の称号も得ておるということじゃった。2008年には、北京にも「龍韻」二胡工房を開いたそうな。現在、ワシントン条約で伐採が禁止されておる希少材のインド産小葉紫檀を使用した楽器は貴重になっておるんじゃが、弾き込んで経年したことで、味わい深い暗褐色に変化しておるぞ。音色を聴かせてもらうと、なるほど紫檀らしく研ぎ澄まされた透明感のあるシャープな音色で、田氏の確かなテクニックも相俟って、この爺、うっとりと陶酔してしまったぞぉ〜(感涙)。



(詳細は本誌をご覧ください)