まず、前回のおさらいがてら、曲の構成を整理してみましょう。この曲は全64小節、そのちょうど半分、第32小節までは前半、第33小節からは後半となり、さらに前半は第15小節を分岐点として二つの部分に分けられます。後半は三つの部分…第45小節のアタマまでと、第58小節まで、そして最後の6小節…からできています。前回はこのように分けた上で、前半が「起」と「承」、後半が「転」、「結(合)」と見なして、それぞれの部分を調べてゆきました。西洋古典音楽の形式を引き合いに出すと、小さな楽曲の「起承転結」は、A A' B A'といった構成が多いのですが、「良宵」は、「転」にあたる部分も「起」で示した音楽的要素の展開となっていますから、さながらA A' A'' A'''のような構成で、これは、中国の伝統的な構成手法に劉天華の独自の感覚が
加味されて構成されている、と言えるでしょう。

今、劉天華の独自な感覚と言いましたが、例えば、民間音楽では、ゆっくり始まって、段階を追って速度を増し、最後は最高潮を迎えて終わる、といった明快な構成がよく見られます。「良宵」を始め、劉天華の作品は、このような慣習的な構成法を安易に用いないで、一つ一つ、独自の感覚で工夫を凝らした形跡が見られます。そして、これこそ劉天華の創作者としての矜持が感じられる点の一つではないでしょうか。

  「良宵」の全体構成に於いては、このように劉天華独自のセンスが光りますが、各部分をつなげたり、終止させたり、といった具体的な手法になると、伝統的なやり方が随所に見られます。そしてこれが、よく「連綿として流れると表現される、中国音楽の特徴の一つともつながっているのです。

  • "連綿"には訳がある
  • 段落付けの手法
  • 伴奏は必要?
  • ピアノ伴奏流し読み
  • ピアノ伴奏の必要性

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上海海文音像出版社「二胡名曲系列(1)劉天華十大名曲・外国名曲二首」
(2005年5月第一刷版) 周成龍、呂百理 編
模範演奏とピアノ伴奏のCD2枚付