恐怖のレッスン!
 我が道をゆく日本人留学生の大学1年目!
 私たち学院の1年生は毎週2回(月・水)のソルフェージュの授業を、大学なのに朝8時から受けることになっている。ソルフェージュとは簡単に言えば、音程やリズム、和声を聞き分ける耳の訓練をする、音大では欠かせないレッスンの一つである。担当する先生はロングヘアーでスタイルのいい、酒井美紀似のF先生。一見して綺麗で優しそうに見える先生だが、実はこの先生のレッスンはかなり恐ろしいのである…。

 F先生の授業は基本的に生徒一人一人に指名してくる授業であり、朝8時の授業とはいえ、寝ている場合ではないのである。 例えばある日のレッスンのこと。F先生が生徒にあるフレーズを歌うよう指示する。

生徒A 『レレミド・・・・ソ、ソ・・(声の調子が悪いのか、かすれながらあまり出ない)先生、今日は喉の調子が悪いので高いソが出ません…。』
F先生『あなたの喉はいつだっていい時なんかないわよ!』

と、無理やり歌わされ、音程がずれた場合は、また更に文句を言われていたのだった…。
 またある時、宿題に出していたフレーズがうまく歌えなかったりすると…
F先生 『練習したのか?』
生徒B 『しました。』
F先生 『それでか?』
と、真顔で言われる…。

 もちろんレッスン中、F先生はほとんど笑わない。常に怒っている顔か真顔なのである。
 いつもなんとも言えない恐怖感と緊張感が漂っていたこの教室で、私は2年間F先生に教わった。怖い分、必死で練習した。ニ胡の練習前に常にソルフェージュの時間を設けて欠かさず練習した。おかげで沢山のことを学んだ。
 2年生の最終学期からF先生は少し優しくなり、冗談も言うようになった。今思えば、これがF先生の授業スタイルだったのだ。

北京といえば、万里の長城!
 9月始まりの中国の新学期だが、10月に突入すると毎年、国慶節で3日間から5日間のゴールデンウィークになる。
 この時期にはここぞとばかりに旅行に出かける人が多く、火車(長距離列車)チケットはすぐに売り切れ状態になり、北京観光名所である天安門広場や故宮の周りにはあふれんばかりの人、人、人。人口多き中国、皆が出てくれば、まさに民族の大移動なのである。
私もそのうちの一人として、さっそく友人と万里の長城へ出かけたのであった。
 天安門西駅の近くの「旅遊集散中心」という、毎日のように観光名所へのバスツアーが出ている所で万里の長城行きツアーチケットを購入し、2時間ほどのバスに揺られて八達嶺長城(バーダーリンのチャンチョン)へやってきたのである。

★注意!
路上で偽「万里への旅」チラシがよく配られています!100元などというべらぼうな値段のバスツアーは絶対にない!

 中国を代表する世界遺産、万里の長城。北京から一番近くて観光スポットとして有名なのがこの八達嶺長城だが、実は留学生の間では慕田峪長城(ムーティエンユィチャンチョン)の方が人気! というのも八達嶺長城は観光地化しすぎていて、つまらないのである。慕田峪長城とは野長城と呼ばれる、いわばまだ修復されていない長城が数多く残っている長城であり、本物の長城に出会えるのだ。
 しかし行くのには北京市内より片道4時間の車移動が必須!ということで簡単には行けないのが問題なのだ…。

つづく

平野 優紀(ヒラノ ユキ)/ 芸名 オウセイ

中国生まれ、日本育ちの二胡奏者。江南絲竹の名門の出である母の影響のもと、幼少より中国音楽に親しむ。2006年中国政府奨学金生(全額免除)として中央音楽学院に留学。2010年卒業し、本格的に活動を開始する。同年11月紀尾井ホールにてリサイタルを行い、ファーストアルバム「花韻」を発売。現在、二胡の講師として教える傍ら、様々なコラボレーションを通じて、日中の架け橋になりたいと願っている若手二胡奏者の一人である。