ついにきた......期末テスト!!!
 ついにやってきた初めての期末テスト。主課のテスト日程はいつもすべての筆記試験が終わった一週間後ぐらいになっていて、練習棟エレベーター横の掲示板に貼り出される。そしてそこからの一週は練習部屋の取り合いが始まるのである。

「主課のテスト日程が貼り出されたよ!」
「えっ?! マジ?! 二胡は何日から?」
「笛は? 揚琴は?」

 宿舎に帰ってきた貼り紙を見た生徒の情報に皆が飛びつく。ここが一番の山場なのである。大学一年目の初めての期末テスト、二胡は......最終日であった。
最終日は意外に辛い...
なぜかというと、終わった人から解放されるからである。
テスト前はみんな一気に気合いが入る。練習棟の受付には常に練習したい人のカードが長い列をなしていた。3時間厳守の練習時間も、この時ばかりはオーバーして減点されても構わない勢いで練習室にこもっている人も多いため、なかなか順番が回ってこない。待ち時間の間、1214にいる友達とメールをしてみる。

友人:「どうしたの?」
私:「もうだいぶ待ってるのに、カードを返す人が誰もいないのよ」
友人:「私のとこ来なよ、一緒に練習しよう!」

そうして順番を待つ間は、よく友達の所で一緒に練習したものだった。
友達との練習は、まだまだレベルが低かった私にとっては、すごくいい勉強になった。なんといっても疑問点を先生のレッスン前に解決できることが多いからだ。
その頃の私は、ビブラートが出来ずに焦っていた。私のビブラートには問題点がいくつかあり、解決できずにいたのである。先生にはゆっくりの練習をしなさいと言われたけど、皆当たり前に出来ている中、できない自分に焦っていた。

 なんでできないんだろう? こうかな?それともこうかな?
試行錯誤をしながら、毎日練習し、指先についた弦の痕が戻らなくなり、痛みだした。それでもめげずに練習し、ついには......皮がむけてきた。痛かった。。。。。。。。
でも何度もむけると、皮が厚くなってクッションのようになり、だんだんと痛まなくなった。後で友達に聞いた話だと、皆この過程をたどってきたのだとか。。。
 二胡演奏においては欠かせない技法の一つのビブラート。やはり今となっては先生のいう「ゆっくりの練習をやるしかない」の意味がやっとわかったのである。
つまり、ビブラート、それは指の関節の屈伸運動であり、ゆっくり焦らずに練習することによって、無意識でもできるようになる! これが最も大事なポイントなのである!
今私が教えている生徒さんにも多いのだが、ビブラートが出来なくて、焦って速いビブラートをかけようとする人は決まって、力が入り、ぎこちないビブラートをして続かない。本物のビブラートはリラックスしていて、いくらでも続けられるのだ。
 さてさて、猛練習の末、ついに期末テストの日がやってきた。
私の試験曲は劉天華さん作曲の名曲、「月夜」だった。二胡を弾く人なら、誰もが演奏する名曲、級数としては6級だが、中身を追究しようと思ったら、本当に奥が深く、難しい一曲なのである。
試験会場は9階の民族音楽ホール。一列に並べられた机に二胡専門の教授や先生がペンを握り、一人ずつ点数をつけていく。静まりかえっている会場には、順番通りに生徒が一人ずつ入っていく。
心臓が飛び出そうなほどの緊張感の中、ついに私の番がやってきた。

 お辞儀をして、イスに座る。ひと呼吸して演奏を始める。緊張しているせいで、先生方の顔をまともに見られない。
「どうか、間違えませんように!!」そう心に願いながら、なんとかして「月夜」を弾き終わった。
お辞儀をして退場しようとしたその時、一人の先生に訊かれた。

「君、だれ先生の生徒?」
「......えっとL先生です......」

 試験会場を出た瞬間から、なんともいえない解放感に包まれ、そして同時に自分に対するプレッシャーをかけずにはいられなかった。

つづく

平野 優紀(ヒラノ ユキ)/ 芸名 オウセイ

中国生まれ、日本育ちの二胡奏者。江南絲竹の名門の出である母の影響のもと、幼少より中国音楽に親しむ。2006年中国政府奨学金生(全額免除)として中央音楽学院に留学。2010年卒業し、本格的に活動を開始する。同年11月紀尾井ホールにてリサイタルを行い、ファーストアルバム「花韻」を発売。現在、二胡の講師として教える傍ら、様々なコラボレーションを通じて、日中の架け橋になりたいと願っている若手二胡奏者の一人である。